消えたマスターテープ

ビクターからマハリックハリーリ名義でアルバム『ボン・ボヤージ』をリリースしたのは1991年。そのタイミングで、キャプテンレコードからリリースした『赤色人形館』(1986年)と『パンドラの呪文』(1987年)の原盤権を買い取った。生々しい話で申し訳ない。

契約書を交わしマスターテープの引き渡しというタイミングで「どこを探してもない」ことを告げられた。どこが持っているのかわからない。もしかしたら廃棄された可能性もあるが、原盤権、つまり権利だけは宝島社から買い取った。当時、対応してくださった皆様にまずはお礼を。ありがとうございました。

あの時代のマスターテープは大きいし重たい。邪魔だから捨てられたのかも。いやいやテープは高価な物だから知らない他のバンドが上から音を入れてしまったかもしれない。それともどこかの倉庫で眠っているかもしれない。

考えても出てくるものではない。リリースして数年で行方不明になった物がさらに何十年も経った今、もう見つかるわけがない。

今とは形状も違うから音を出すだけでも大変だけれど、レコードのブチブチ音がない『赤色人形館』と『パンドラの呪文』の音がもう聴けないのは少し残念な気がする。

先日、久しぶりに『赤色人形館』を聴いたら、去年亡くなったマリンコーニアのアキの声が際立って聴こえた。新宿アキ。高校生の頃から友人だった私にとっては本名の久保田安紀。

スターリンのシンタロウさんのベース、生活向上委員会のしのちゃん(篠田昌已さん)のsaxも。心がざわつく。ざわざわする。

お金を貯めて、ミュージシャンの皆さんにお願いしてスタジオに入りやっと産みだせたアルバムだから思い入れが強いのかと感じていたけれど、この『赤色人形館』に収録されたすべての楽曲には参加ミュージシャンの個性と強力なパワーが詰め込まれている。触ろうとすると弾き飛ばされるようなパワーが極端な引力を持つから何年も何十年も経ったいまでも特別に思いが強いのかもしれない。

Voが大きすぎるとか、音程が……など、自分で気になる部分はたくさんあるけれど、まだ10代だった当時、これだけのものを作るのは大変だったはず。10代の小娘が一人で作れる力などある訳もなく、これも周りの皆さまに感謝しかない。

『赤色人形館』『パンドラの呪文』から、少しずつ、参加してくださったミュージシャンの方々への思いや当時のことなどを綴っていきたいと思います。

MAHALIK HALILI

- マハリックハリーリ - Vo.ななきさとえ G and All.津秦一郎